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第3回 ボデゴン その1 その2 |
絵画のジャンルに「静物画」というものがある。 改めて説明するまでもないかもしれないが、草花や果実、死んだ魚や鳥、楽器、書物、食器といった静止したものを描いた絵画である。 静物は古代ローマの壁画に部分的に描かれることもあったが、ようやく16世紀頃になって単独で描かれるようになった。 静物画は17世紀になると、風景画や風俗画と同様に独立したジャンルとして確立する。 17世紀フランスにおいて確立した絵画の序列では歴史画、肖像画に劣る地位に甘んじていたジャンルだったのだが、時代を下るに従ってこの序列が崩れていき、19世紀には一般的な画題となった。 ゴッホ、セザンヌ、ピカソといった「巨匠」たちが数々の傑作を生みだしている。 日本語ではひとつの単語で全て済ませているが、この静物画の概念はヨーロッパでは国によって少しずつズレがある。 例えば英語では still life と呼び、フランス語では nature morte と呼ぶ。 英語は直訳すると「静かな生物」となるのに対し、フランス語では「死んだ自然」を意味する。 英語では生きていることに重点が置かれ、フランス語では死んでいることに重点が置かれている。 つまり、静物に対する視点が全く逆転しているのである。 面白いことにスペインでは、全く別の発想から生まれた言葉が使われている。 フランス語の nature morte に対応する naturaleza muerta という表現もあるにはあるが、これはほとんど使われることがない。 スペイン語では一般にボデゴン(bodego'n)と呼ぶのである。 このボデゴンという単語は「酒蔵」を意味するボデガ(bodega)の増大辞なのである。 さすが人口に対する飲み屋の数がヨーロッパで最も多い国だ。 静物画にまで酒のにおいがする。 時に「厨房画」と訳されることもあるボデゴンは、台所仕事の様子を描いた絵画にも適用され、いわゆる「静物画」とは若干のズレがある。 ベラスケスの初期作品がいい例だ。 静物そのものよりも、それを使う人物が中心となっている《セビージャの水売り》や《卵を料理する老婆と少年》は静物画というよりも風俗画に近い。 ボデゴンがいわゆる静物画の意味で用いられるようになったのは18世紀後半になってからで、それ以前は風俗画と静物画を足して二で割ったようなものだった。 |
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