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第1回 絵画は「もの」である

その2       その1 その3

 てなわけで、最初にテーマとして掲げた「絵画の物質性」について考えてみよう。 絵画の物質性なんて難しそうな言葉なんだけど、要するに言いたいのは、絵画だってただのモノなんだよってこと。 厳かに美術館に飾られていると、芸術作品であるという仮面の下にこの物質性が見逃されてしまいがち。

 だけど、芸術という言葉だって何か具体的な実体を持つものじゃない。 しかもその判断基準も時代とともに移り変わる曖昧なものでしかない。 例えば江戸時代の枕絵(春画)は今日でこそ芸術作品と見なされてるけど、当時としてはエロ写真と同じようなものでしかなかったに違いない。

 芸術作品と呼ばれる物体は、絵画であれ、詩であれ、椅子であれ、茶碗であれ、全て見方を変えれば単なるモノにしかすぎないだろう。 ゴッホの《向日葵》も木枠に布を張り、油絵具を塗ったモノでしかないし、それに価値を認めない人にとっては、そこら辺に転がっている石ころ同様の意味しか持ち得ないかもしれない。

 あるモノを芸術だということによって、それは石ころとは違う、高い価値を持つものと見なされるようになる。 つまり、芸術という概念は無限にある人工物の中から価値あるものを区別する口実なんだ。

 だから多くの人が芸術作品と認めれば、それは価値あるものになるってだけであって、そのモノが本質的に優れているんじゃない。 我々人間が時代の価値基準に従って特定のモノが優れていると判断するのである。

 文学の傑作は紙の上の文字の羅列でしかなく、国宝の陶器は焼いた土でしかないかもしれない。 その中から芸術として優れたものを区別していくのだとしたら、何を基準にして芸術だと認めていくかを自覚していないと、他人の価値判断に盲目的に従っているだけになるんじゃないかな。

 じゃあ、絵画をモノとして見ると何が見えてくるのか。 美術館で見る機会が最も多い油彩画の場合は、もちろん画面を規定するキャンバスとそこに塗られた絵具が見えてくる。 でも、キャンバスや絵具のことって意外と知られてないんだよね、実は。 どんなに絵をじっと見ても、絵具がどんな状態かなんて気にすることはほとんどないでしょ? 絵の内容を見るので精一杯ってのが普通。


関連ページ: ヴァン・ダイク《サティロスに驚かされるディアナとエンディミオン》の修復 (プラド美術館・公式ホームページ) http://museoprado.mcu.es/prado/html/exposicion14.html
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◆第1回 絵画は「もの」である
◆第2回 スペイン美術ってなに?
◆第3回 ボデゴン
◆第4回 再現の難しさ
◆第5回 美術品の裏の世界
◆第6回 それ僕の!
◆第7回 星へと続く道
◆第8回 典型的なスペイン女性
◆第9回 バルセロナ > ガウディ
◆第10回 ピカソは何美術?

 

 

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