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第5回 美術品の裏の世界

その2    その1

 絵画や彫刻ってのは美術館に飾られていると、それは「芸術作品」だからと経済的価値を超越しているように錯覚しがちなもんだ。 でも、所詮は「モノ」であるわけだから相応の値段が付いて売買される。 そして、ものによっては億単位の価値がつけられるものである。

 これが盗難の被害に遭わないわけがない。 日本ではあまりニュースにならないけど、ヨーロッパでは美術品の盗難はたまに見かける事件である。例えば、

 湾岸戦争のとき、クウェートの王宮から盗まれたピカソの《農婦》がトルコのエスミルナという都市で見つかった。(ABC紙2000年6月13日より抜粋)

 当たり前だけど、ミサイルが飛び交うだけが湾岸戦争じゃなかった。 売り飛ばせば数億になることは確実な絵画作品を、いったい誰が持ち去ったのか。 クウェートに侵攻したイラン軍が略奪したか、それともどさくさに紛れてクウェート人が持ち去ったのか。 どっちにしてもスパイ映画のようなイメージが想像される。気分はもう 007!

現在は国立絵画美術館に展示されている。 トルコの専門家たちが本物であることを確認している。

 ちょっと待て。 なんでクウェートで盗まれた絵がトルコにあるんだ? 裏ルートってやつ?

 新聞記事によるとトルコの国立絵画館に展示されてるらしいけど、この作品がこれからどうなるのかが気になるところだ。 そのままトルコの所蔵になんのかな。 クウェートに返還されるのかな。


 2000年1月26日のABC紙には、ユステでカルロス五世の彫像が盗まれたという記事が載っていた。 ポンペイ・レオーニのオリジナルを元に、ペレス・コメンダドールという彫刻家が制作したもの。

 カルロス五世っていうのは聞いたことあるよね? 神聖ローマ帝国のカール一世のこと。 高校の時、世界史で習った。 「スペインのフライパン」エストゥレマドゥラにあるユステのフランシスコ会修道院で、カルロス五世は隠居生活を送った。

 盗まれた彫刻はブロンズ製、重さ50kgもあるやつ。 建物の入口に設置されているとはいえ、修道院内部にある彫像を修道士に気付かれずにどうやって運び出したんだろう? 興味あるな。

 で、間抜けなのはこの彫像に市場価値がほとんどないこと。 捕まるリスクを負って50kgの彫刻を運び出した労力を考えると、到底割に合わないらしい。  間抜けな泥棒だ。

修道院の入口には彫刻がのっていた台座だけが残されていた。

 数日前の新聞にはこんな記事が掲載されていた。

 ブリュッセルの有名な画廊で、インターポールが世界中で探していた7点の美術品が売りに出されるところだった。 グアルディア・シビル(治安警察)がブリュッセルへ赴き、4000万ペセタと評価される作品を取り戻した。 これらはピカソの友人であった芸術家フリオ・ゴンサレス(バルセロナ1876年-パリ1942年)の作品である。7年の間、これらの作品は行方不明になっていた。 ふたりのポルトガル人兄弟が持ち主である画家アベル・マルティンを殺して、盗み出したのである。(エル・パイス紙、2000年11月18日より抜粋)

 殺人事件だよ。 こえぇぇ。 しかも、犯行現場であるアベル・マルティンのアトリエはマドリードの郊外、豪華な別荘地にあるらしい。

 結論。 美術作品の盗難ってマンガの中の世界だけじゃなくて、我々が生きる現代にも意外と頻繁に起こる事件なのだ。 警備員もまばらな美術館に行くと、「これをちょっと拝借して・・・」なんて考えたくなることあるけど、インターポールに追われるのもちょっとなぁ(^^;

2000年11月25日 


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◆第1回 絵画は「もの」である
◆第2回 スペイン美術ってなに?
◆第3回 ボデゴン
◆第4回 再現の難しさ
◆第5回 美術品の裏の世界
◆第6回 それ僕の!
◆第7回 星へと続く道
◆第8回 典型的なスペイン女性
◆第9回 バルセロナ > ガウディ
◆第10回 ピカソは何美術?

 

 

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