● ヒホン・オビエド ●
この地方はリンゴの名産地として知られ、通りにはシドラと呼ばれるリンゴ酒を扱う専門店シドレリアが立ち並んでいるのだが、(なんだリンゴ酒か)と侮ってはいけない。注ぎ方がまたニクイ。頭上高く持ち上げた瓶からほとばしる黄金の液体を、もう一方の手で可能な限り低く構えたコップで受け止める。わざとコップの縁を目掛けて弾けるように注ぎ込むとシドラに微かな泡が生まれる。大きなコップに底2センチ程度だけ注がれ、一気に飲み干す。毎年9月に行われるシドラ祭りでは老いも若きもシドラ片手に飲み、歌い、そして踊る。当然、名物料理のファバダ・アストゥリアナ、メルルサ・ア・ラ・シドラも登場し祭りは明け方まで繰り広げられる。一年365日、どこかで必ず何かのお祭りがあるスペインで美味しい料理と飲み物は必須条件なのである。
ファバダとはアストゥリアス産のファべという白いんげんとブティファラ、チョリソ、豚の臓物をじっくり煮込んだ料理である。温かい物が喉元を通ったかと思うと一気に胃までドーンと滑り込む。胃の中が熱い。ワインと一緒に食べようものなら効果は絶大となる。ほら、何やら耳まで熱くなってきた。こってりとしたファバダとは逆にファべス・コン・アルメハスは同じ白いんげんの煮込みだが、アサリの味が染み込んだあっさりしたものだ。が、一人前注文したら鍋ごとテーブルに運んできてくれた。(これ、全部食べろって・・・?)さすがスペイン。
すっかり膨張した胃袋を労りつつも、名物チーズ”カブラレス”を食べずには帰れまい。人の群がるバールのカウンターの隙間からスルリと潜り込み注文。「セグロ?(本当かい?)」「シー!(もちろん!)」という問答を交わしたものの、本当はその確認の意味が分かっていなかった。(だからいつも言ってるじゃない。簡単に”シー!”って言うもんじゃないってば。)目の前に出されたのはなんと強烈な匂いのブルーチーズ。何を隠そう、実はブルーチーズが苦手なのだ。あのツンと鼻をつく黴っぽい香り。観衆の視線は今からカブラレスに挑戦する日本人に釘付け。ガブリと食いついたものの飲み込む勇気が無い未熟者。赤ワインで流し込もうと試んだが、飲み込めない!四苦八苦したのちとうとうセルビジェタ(紙ナプキン)にこっそり包み捨ててしまったのだった。スペインで飲み込めなかった食材は現在のところこれだけだ。
後になって知ったのだが、なんでも名物カブラレスは同じく名物シドラに浸けるととても美味しく食べやすくなるらしいのだ。そういうことは、もっと早く言ってもらわなくては・・・。
お口直しにアロス・コン・レチェを食べてみよう。遠い昔、フランスのナポレオン3世にこの地から嫁いだ姫君がお嫁入り道具と共に隣国へ持ち来んだらしく、現在でも多少の変化をとげながらも”リ・ア・エンぺラトリス”。つまりフランス語で”お姫様のお米デザート”といった名で残っているそうだ。
お菓子好きにお勧めしたいのが、カサディエジェス。歴史的にも古く、この地方では一部の地域を除くほぼ全域で親しまれているらしい。また、”フレイスエロ”は直訳すると”床磨き”。あまり想像しすぎないでチャレンジするのが良さそうなネーミングである。
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