ぽたぽた隊-羊を食べに行く
トラスピネド/メソン・モリネロ 文・写真:清水 理惠
 

 スペインMLには、おいしいものに目がないメンバーが数多。 ある時、仔羊のおいしいレストランの話が上がり、いつしかそれを食べに行くツアーを催そうという話で盛り上がり、果たして2001年6月の土曜日に実際に決行されたのです。 その名も(よだれ)ポタポタ隊。 スペイン在住のメンバーを中心に、日本から駆けつけた私と友人。 総勢13人。


ドゥエロ川 羊を焼いて・・・と聞いていたので小さな村のHacienda(農村)のようなところを勝手にイメージしていたらトラスピネド(Traspinedo)は、まったく普通に建物が並ぶ町で、その一角、カジェ・マヨール(Calle Mayor)にそのレストランはあった。

 6月のスペイン、真っ青な空は果てしなくどこまでも続き、雲が立体的に浮かぶ。 白壁にMESON MOLINEROと書かれているが入口がどこだかよくわからない。 木製の扉らしくない門を開けてはいると、中はとても広く、薄暗い中に長いテーブルがいくつも並んでいるのが見えた。 穴蔵に入ったときのように冷んやりとした空気でないのは奥にBRASA(炭)の火がパチパチと燃えているからだろう。

羊串焼き 皆が座ったか座らないかのうちに、興味のその火元へ飛んでいった。 仔羊は丸焼きでもなく、ぶつ切りでもなく、長い鉄の串に隙間なく刺されて、行儀良く炉の上に並べられ、ゆっくりジリジリと焼かれている。

 奥側に大きな炉があり、赤い火が一定の大きさを保ってパチパチと燃えさかる。 ぶどうのツタsarmientoを燃やして、小さくかたまりになった状態のものをシャベルのようなヘラですくい、肉の上にかざしては、焼いている肉の下にすべり込ませる。 時々串ごと回転させて全体に火が回るようにする。 料理としてはまったく難しくないシンプルな焼き方だ。 焼き鳥と同じ。 油がほどよく落ちて、全面が遠赤外線でジワジワと焼かれる。

 さて、席ではYoshiさんが注文する。 人数を数えながら羊の数を注文し、サラダ、ケソ(チーズ)、チョリソの数を決める。 ここはメニューがなく、値段が書かれたものもない。

 羊はカスティージャ・イ・レオン地方ではいろいろなところで食べられるらしい。 その日の市場の価格によって、いわゆる時価らしいが、通常1串あたり1500〜2000ペセタで5〜9月は少し高い時期だそうだ。

 Vino(ワイン)を飲み始めた。 Abadia RetuertaというブランドのVino Joven。 このボデガ(ワイナリー)はリベラ・デル・ドゥエロの認定地域から少し離れたサルドン・デ・ドゥエロ産のため、原産地証明をとれないらしいが、洗練されたスッキリとした赤ワインだ

オーナー カルロス 羊が出てくる前に、ケソとチョリソとパンとビノを堪能する。 確かに非常にお腹は空いていたが気のせいではなく、すべてがものすごくおいしい。 ケソはオベハ(羊)、チョリソは自家製で豊かな味がする。 おいしくてどんどん口に運んでいたら、Norieさんの「ここで食べ過ぎちゃうと羊が食べられなくなるから」という声でセーブして羊の到着を待ったが、ケソとチョリソだけで採点できるレベルだった。

 さてサラダがやって来た。 木製のボールに入れられたサラダは何かマジックスパイスを振りかけたかのように本当に美味。 SARAさんのレポート(最近の私たち No31 4月16日分)にあったように、このサラダが、羊をたくさん食べられるか否かの勝敗を決めてくれる。 アセイテ・デ・オリーバ・ビルヘン(バージン・オリーブ油)とビナグレ・デ・ビノ・ティント・ナトゥラル(赤ブドウ酢)、そしてサル(塩)、それだけだという。

皿に出された羊 サラダに感心しているとオーナーのカルロスの手によって羊がテーブルまで運ばれて来た。 串刺しのままテーブルの中央まで来て、それを皿に落としてくれる。 シュラスコのようだ。 カリカリに焼けていて、香ばしく、本当に臭みがない。 生まれてから1ヶ月、お母さんのお乳しか飲んでいない仔羊は1頭約10〜12kg。 1頭は約9〜10串分だ。 1人1串注文しているので、私たちはみんなで1頭半ぐらいを食べたことになる。

 1口で食べられるサイズがまたよく、次から次へという欲望がわいてくる。 中央の皿になくなった頃にまた運んできてくれるので、暖かい状態のものをいつでも食べられるのがいい。

カルロスが焼く羊串 この羊以降、Konyさんとふじこさん夫妻と私の友人と5人で羊の旅を続けたわけなのだが、私の中では羊の旅のベスト1がモリネロだ。

 サンティジャナ・デル・マールとセプルベダでも羊を食したが、毎回羊の肉の形が違い、料理法も異なり、味もそれぞれだった。 どれも特徴的でおいしかったが、実は私自身、羊臭い羊がダメで、全くいやなにおいがしない仔羊を供してくれるモリネロは印象的だった。 これなら羊が嫌いな人でも食べられる。

 さて、途中でビノ・デ・ラ・カサ(ハウス・ワイン)に変わる。 ラベルは「メソン・モリネロ」と印刷されて、風格もうかがえる。 最初に飲んだものの半額だが、こちらの方が洗練されすぎず、カンポ(野原)の香りがしてふくよかな味があり、羊にはピッタリだった。ワイン

 ここのレストランは料理の種類は決まっているが、さすがリベラ・デル・ドゥエロ、ワインは数種類揃っている。 ベガ・シシリア・ウニコ1974年も置いてあった。 ちなみに値段は25000pts。

 オーナー、カルロスが自ら焼く仔羊は香りと形は上品だが、決して気取った物ではなく、地のワインとサラダを心地よいハーモニーにしていくらでも食べ続けさせるおいしい羊だった。

 今回の出席者の中でいちばん食べた功労者(?)は私の友人のたかこさんだろう。



主な登場人物紹介
Kony

ぽたぽた隊隊長。 今回の羊ツアー旅行計画作成,および旅行手配を担当した。 出発前に大きな怪我をしたが、痛々しい姿で全行程にわたって隊員を指揮し、隊長の任務をまっとうした。

SARA ぽたぽた隊には諸般の事情で欠席したが、本隊の計画実行前にメソン・モリネロを訪問、その羊料理を絶賛する記事を書いた。 自称、空飛ぶバイラオーラ。
Yoshi & Norie
バリャドリード近郊に住む夫妻。メソン・モリネロを見つけ出し、MLメンバーに紹介した。 今回は、予約と料理注文を担当。 ワイン販売を仕事にしており、ワインの知識はあなどれない。
カルロス メソン・モリネロのオーナー。 いかにもレストランのオーナーという風情で,出てくる料理がよりおいしく感じられるという雰囲気を持つ。
ふじこ ぽたぽた隊隊員ながら、飛行機座席の予約がとれなかったために、今回のメソン・モリネロには欠席という不運に見舞われた。 しかし、そのあとの旅行を夫婦で十分に楽しんだ。
友人
たかこ
筆者の友人。 MLのメンバーではないが,ぽたぽた隊に参加。 隊員の中で一番羊を楽しんだと思われる。 ソムリエの資格を持つワイン通。
この記事の筆者。 今回の羊ツアー企画をたて、実行に移したぽたぽた隊最高責任者。 本当は羊肉が嫌いであるというウワサがある。



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