| JOANのカタコト |
| 11.ビール |
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どんな言語を使っている国に旅行に行っても「ビール」を意味する単語だけは、真っ先に覚えてきました。お酒を飲まない人には関係ないでしょうが、覚えたての単語を使い「ビール一杯お願いします」と注文して、それが通じるかどうかも旅行の楽しみの一つなのです。もっともどの言語でもビールという単語自体はそれほど難しくなく、会話としては「一杯お願いします」の方によりバリエーションがあるように感じます。 全く学術的ではないのですが、西ヨーロッパの言語では大きく分けて3系統の単語で「ビール」を示しているようです。英語・ドイツ語・オランダ語・フランス語・イタリア語などは、「ビア」系の単語でビールを呼んでいます。一方北欧では「エル」系の単語が使われ、イベリア半島では「セルベサ」系となっています。 カタルーニャ語ではビールをcervesaと綴り、カスティージャ語ではcervezaです。cervesaとcervezaは綴りの上ではsとzの一字だけの違いですが、発音上いくつかの相違点があります。とはいうものの、この単語は現実に使用される場合にはほとんど差がないのです。例えば誰かがバールでビールを注文しているのを聞いて、一体どちらの言語が使われたのかを聞き分けるのは、ほとんど不可能に思われます。その上にカタルーニャ人でも外出先で飲食物を注文する際には、カスティージャ語が多く使われる傾向も否定できません。 さて、その一方で店に売られているビールの表示に問題があるのです。EUの国々では商品の流通が自由化しているせいもあって、ひとつの商品に複数の言語が書かれていることも普通です。例えば手元にあるスペインの有名なサン・ミゲルというビールにも、カスティージャ語の他に英語・ドイツ語・イタリア語・フランス語で「ビール」と書かれています。けれどもそれはカタルーニャ語圏で広く売られているものなのに、そこにはカタルーニャ語での表示がないのです。他のメーカーのものも大体同様で、複数の言語表示はされているのにカタルーニャ語は使用されていません。 実はこれは何もビールに限った話ではなく、色々な商品の表示にカタルーニャ語が使用されないことに、多くのカタルーニャ人達は不満を持っているのです。特に地元の企業が地元で製造販売している商品の場合には、複数の外国語を使用しているにもかかわらず土地のことばを疎かにしている企業姿勢に対して、強い批判が起こっているのです。カタルーニャ特産のシャンパンを作っている会社もかつて槍玉にあげられ、現在いくつかの製品にはカタルーニャ語でも表示が書かれるようになっています。 ビールは日ごろ目にしやすい商品だし外国語表示が目立っている上に、多くが地元でボトリングされているのだから製造企業が姿勢を改めれば、「明日からカタルーニャ語でビールが飲める」と民族主義的消費者運動家達は主張し、中には特定メーカー品の不買運動を呼びかけているグループもあります。 言語問題というと、他者の言語が理解できないことに由来する争いではないかと日本人からは想像されますが、カタルーニャ語圏ではそうとばかりは言えないのです。そこでは、「ビール」に限らずかなり似ているカスティージャ語とカタルーニャ語の差異を強調することにより重要性があり、理解できるかできないかという尺度はほとんど意味を持っていないようです。 ということで、言語的にはあまり違いの少ない「ビール」なのですが、その中身ではなく外の表示をめぐっての争いがカタルーニャ語圏にはあるのです。で、カタルーニャ語が書かれているビールは存在しないのかというと、ないことはないのです。あるスペイン全土にチェーンを持つスーパーマーケットの自社ブランド製品には、カタルーニャ語のみならずスペインの公用語4つ全てが書かれています。これは非常に珍しいケースなのですが、ものは試しでそれを買ってきて飲んでみました。 苦かった。 |
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