la cara
006 Mayo / 2001

 

アンヘル・アントニオ・ロペス・エルナンデスさん

スペイン miniQ&A


日本人が一般的に持つスペインのイメージについてどう思う?

:太陽とフラメンコ、アンダルシアというイメージを持っているのは日本人だけじゃないよ。ほかのヨーロッパ人も、アメリカ人も、みんなスペインといえばフラメンコとパエジャだと思っているし(笑)。ただ、それだけがスペインじゃないってことを知ってほしい。

この学校の生徒達に望むことは?

:国際交流を通じて、生徒達が“心理的な壁”をとりはらって国境を越えた友情を築いてくれること。そしてもちろん、いつか日本も訪れてほしいと思う。

アンヘル・アントニオ・ロペス・エルナンデス
(A'ngel Antonio Lo'pez Herna'ndez)

1953年生まれ。スペイン、ピエドライータのI.E.S."Gredos"の教務長であり英語科教師。


Piedrahi'ta(ピエドライータ)はアビラ県南西部の小さな町。
アビラ中心から約57km、サラマンカから南へ約67km、マドリードからはア・コルーニャ街道経由で約174km。

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地図


  スペインの片田舎で、生徒数約200人という小さな公立学校がフランス、イタリア、スウェーデン、フィンランド、そして日本とも国際交流を行っていると聞いて驚かない人はおそらくいないだろう。その学校とは、I.E.S."Gredos"(グレドス高校)。アビラ県のピエドライータにある、ごく普通の公立学校である。

  I.E.S.とは中等教育機関を意味し、日本でいうところのいわゆる中高一貫。エソと呼ばれる4年間の中学校課程(義務教育)と、バチジェラトと呼ばれる2年間の高校課程で構成されていて、スペインの公立教育では一般的な形態だ。このグレドス高校では数年前から15歳以上のクラスを中心に様々な国際プロジェクトに積極的に参加、特にヨーロッパ各国とのインテルカンビオ(国際交流)に非常に力を入れている。1999年からはアジアとの交流の第一歩として日本人アシスタント教師を2年連続で受け入れ、現在はアメリカやカナダの高校ともインテルカンビオの交渉を進めるなど、広い視野で外国語・外国文化学習に取り組んでいる。

  これらの活動を中心になって進めているのが、グレドス高校の教務長であり英語科の教師でもあるアンヘルさんだ。しかしなぜ、このような小さな田舎の学校でこんなに国際的な活動をしているのか?
 「それはね、ここピエドライータが田舎だからだよ。」
 疑問を察したかのように、アンヘルさんは語る。

  ピエドライータは総人口2000〜2500人の小さな由緒ある田舎町。公共の交通機関は1日2、3本のバスのみ、大自然に囲まれた、“町”というよりは“村”といったほうがしっくりくるような地域だ。夏は暑く、冬の寒さはひときわ厳しい。中世からの歴史と雄大な自然には恵まれているものの、都会のように他国の文化に触れられる場所や機会はなかったし、そんなものは村の生活には必要ない、といってしまえばそれまでだった。公務員以外は住人の大半が商店経営か牧場関係。大学生はみな都会へと出ていき、家業を手伝う者以外は若者が少ない。過疎化問題はどうやら万国共通のようだ。しかし、この小さい村で生まれ育つ若者たちに少しでも世界を知ってもらい、視野を広げ、将来の可能性も広げて欲しい。それがこの村出身のアンヘルさんの目的のひとつであるという。

  「それに、各国のパラグライダー選手と会話のひとつでもできれば楽しいだろう?」
グレドス山脈の山麓に位置するピエドライータは、実はスカイスポーツのメッカとしても知られ、毎年夏には国内外から多くのパラグライダー選手や避暑客が訪れる、小さいが非常に国際的な村でもあったのだ。
 「この学校は今、この村で唯一そういう機会を提供できる貴重な場所なんだよ。」

  こうした教育者としての意欲と国際的な関心は、グレドス高校にヨーロッパ各国とのインテルカンビオを実現させる。同様の考えを持つ高校と連絡を取り合い、交渉を進め、昨年度はイタリア、フィンランド、スウェーデンの高校の生徒達と2週間前後の交換授業を行った。いずれも相手校がスペイン語を勉強している学校のため、コミュニケーションはスムーズだった。同じヨーロッパとはいえ、北欧諸国との交流に関しては参加した生徒も教師もその生活や文化の違いに驚かされたという。今年3月にフランスとのインテルカンビオを終えたばかりの現在は、なんとアメリカはニューメキシコにある先住民族の村の高校とも交渉を進めているそうだ。

 ではなぜ日本とのインテルカンビオを?その背景には、アンヘルさん自身の日本への関心があった。きっかけは、若い頃にロンドンで日本人青年と部屋をシェアした時。世界中から学生が集まるサラマンカで学び、その後イギリスへ渡ったアンヘルさん。外国人には慣れていたはずなのに、初めてひとつ屋根の下で暮らす“日本人”との性格や習慣の違いには驚くばかりだった。
 「例えばスペイン人は平均的に大声でよくしゃべるし、自己主張も強くて、人の話を 黙って聞いていられないのが普通なんだ。でも日本人はそうじゃないから、彼の話を途中で遮って怒られたりとかね。いやあ、だからお互いに“変な奴め”と思っていたよ(笑)。」
 彼とは6ヶ月一緒に暮らしていた。当然、初めのうちはうまく付き合うことができなかったが、時が経つにつれてお互いの性格や習慣を理解しあえるようになり、現在も連絡を取り合う大親友になったそうだ。この体験はアンヘルさんの“日本観”を大きく変えた。
 「彼はその後ロンドンで結婚したんだけど、式には僕も出席したんだ。」

 現在のグレドス高校に着任する前は、マドリードにある文部科学省の関連機関である教育研究センターで働いていた。全ヨーロッパの教育情報網と各国のデータベースを持つこのセンターには、教育関係の生きた情報が入ってくる。そこではスペイン語教育に携わる日本人と接する機会も数多くあったという。そしてこのセンターの情報網を通じて、日本人アシスタント教師を受け入れて日本文化について学べるプログラムがあることを知る。日本を、そしてアジアを知る第一歩としてとても良い機会ということで現職についてから早速申し込み、一昨年から2年連続、すでに2人の日本人を受け入れた。ピエドライータの日本との交流第1ページが始まったわけである。

 またグレドス高校は、その盛んな交流活動や全課目を通じての英語教育の推進などにより、昨年度のEUの国際教育プロジェクト"Sello Europeo 2000"に参加して表彰を受けた。そして今年度もEUプロジェクト"Comenius"の一環として、なんと7ヶ国語(西・英・仏・伊・日・フィンランド・スウェーデン語)でグレドス高校周辺地域の特性と生活を紹介、各国との比較を試みる冊子を作るというプロジェクト、"Europa nos necesita"に全校をあげて取り組んでいる。まさに、今後のインテルカンビオの助力とするための新たなチャレンジである。そして今やグレドス高校に外国人の姿を見ることは日常の姿となり、“インテルカンビオ”はアンヘルさんにとってのライフワークにもなっている。

 では、今後も日本およびアジア各国との交流を続けるならば、どんな形が理想的か?
日本とスペインのインテルカンビオは、まだまだ日本からスペインへの一方通行であるのが現実だ。今回グレドス高校が行った日本との交流形態も、スペイン語を解するボランティア日本人教師の受け入れだった。もちろん、日本からだけでなくスペインの生徒達が日本に行き、自分達の目で日本を知ることができればそれが理想的だとアンヘルさんは言う。日本のたくさんの教師達、生徒達にもスペインのことをもっと知ってもらえるだろう。しかし、それには様々な問題を避けて通れない。

  スペイン人生徒が日本に行くための一番の問題は、まず第一にお金である。通常、ヨーロッパ内での学校同士のインテルカンビオでは、参加する生徒はもちろんお互いの学校側が負担する費用もできるだけ少なくしなければならないし、実際そのように努力されている。それに比べて、地球のほぼ裏側にある日本の場合、航空運賃に加えて、世界一高いともいわれる日本の物価。名実ともに遠い日本に集団で滞在するということは、まず普通なら想像もできないことなのだ。

 そして、第二の問題は言語。大学レベルや私立の学校ならばともかく、日本の公立教育ではスペイン語の授業もスペイン語を解する先生も非常に少ない。当然、スペインの公立教育に日本語があるわけでもない。従ってインテルカンビオに伴う学校側の交渉や実際の生徒達の生活も、最低限のコミュニケーションは英語ということになるだろう。だがスペインにしても日本にしてもみな英語が得意というわけでもない。言葉は通じなくとも心は通じる、とよく言われるが、スペイン人にとっても日本人にとっても、言葉の壁はやはりまだまだ大きい。

 それでも日本との交流プログラムへの参加はグレドス高校の教師や生徒達の持つ日本のイメージを大きく変えた。これまでは日本についての情報もイメージも断片的で、偏っていた。日本人のパラグライダー客がやってきて、バールで話をしたりいっしょにサンドイッチを食べたりすることはあっても、彼らが帰ってしまえばそれで終わりだった。
 「ここの住人達は、外国人の“観光客”や“スポーツ客”には慣れている。ただ積極的に彼らと分かり合おう、この村のことを外に伝えていこうとする動きがこれまでは足りなかったと思うんだ。でも、実際に2人の日本人とこの学校で一緒に過ごす機会を得て、その考え方や文化をいろいろ知ることができた。もちろん全部とはいえないけどね。遠い国日本について知る第一歩としてはとても良い方法だったし、今後も日本や他のアジア諸国との交流を続けていきたいと思う。」
 どちらにしても、望みどおりの形でそれを実現する為には形式をいろいろ検討する必要があるだろう、とアンヘルさんは述べる。しかし“日本との最良のインテルカンビオ”という夢は更に大きくなっているようだ。

  そんな日本人が持つスペインの一般的イメージは、やはり“太陽と情熱の国”。光と影、一面のヒマワリ畑、フラメンコ、かき鳴らされるギターの調べ、闘牛・・・しかしそれはスペインの一部のエッセンス。例えばこの地方ではスペインの代名詞とも言えるフラメンコはほとんど踊らず、村祭りの定番は“ホタ”と呼ばれる民族舞踊が多い。
 「ここピエドライータ、アビラやサラマンカ、マドリード、トレドなども含めていわゆる“カスティージャ”と呼ばれる地方は、かつてのスペインのカスティージャ王国に始まる、最も純粋なスペインの魂を持つ地域。スペインの原点がこのカスティージャ地方なんだ。各地方でいろいろな顔を持つスペインだけど、カスティージャを知らずしてスペインを知ったことにはならないよ。」
 純粋なカスティージャ出身のアンヘルさんは熱弁を振るう。スペイン人は愛国心も強いが、愛郷心も強いのだ。

 「だから外国語教育は大事だ。例えば君達がパコ・デ・ルシアを理解するにはスペイン語がわかればもっといいだろう?ある国の言語を知ることは、その国の文化を知ることと同じなんだ。逆にいえば、文化を知るためにも、言葉を知ることは大事なんだよ。この村はとても美しい所だし、我々の文化もすばらしいものだと信じている。そうだろう?」アンヘルさんは笑った。

 今後もアジアとの交流を深めることを希望しているアンヘルさんは、インテルカンビオ可能な日本の教育機関とコンタクトを取りたいという。「この地域では、もし興味があればスペイン語以外にもたくさんのことを学べる。例えば夏ならスカイスポーツや乗馬。大自然の野山を歩くのもいい。日本とスペインは距離的には遠いけれど、今はEメールを使えばすぐ連絡が取れる。私達グレドス高校との国際交流に興味がある日本の方、是非連絡を下さい。 "Nosotros esperamos."(私達は待っています。)」アンヘルさんはそう締めくくった。

 このメッセージが日本で一人でも多くの人に届き、一人でも多くの将来の国際人を育てることを期待したいと思う。

インタビュー担当 Maki

※  グレドス高校、アンヘルさんへの連絡先(文書またはEメール)は、スペイン語または英語で下記まで。
I.E.S."Gredos"
Ctra. Pesquera s/n 05500 Piedrahi'ta (A'vila) SPAIN
A'ngel A . Lo'pez Herna'ndez
E-mail: alopez76@mimosa.pntic.mec.es

 

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