● ビルバオ ●
ビルバオでは今までの雰囲気は一転し、壁に空けられた鉄砲弾の跡や落書き、険しい顔の守衛兵に思わず緊張してしまうが、ここまで来て何も食べないハズがない。
バスク料理を支える背景としてカンタブリア海のみならずピレネー山脈をはじめとする山岳地帯により育まれた恵みを挙げずにおく訳はない。チュレトン・デ・ブエイは生後3才までの子牛、コルデロ・レチャルは特に生後4週目までのラチャという種の子羊と限定され、共に炭焼きで香ばしく焼かれて登場することだろう。春先にはペレチコスやギベルディーニョスなんてまるで怪獣映画に出てくる名前のような茸類の鉄板焼きや卵とじも味わえるかもしれない。イディアサバルチーズも見逃せない。
バスク料理のもう一つの特徴に唐辛子がある。大航海時代に南米から入ってきたのだが、同時期に伝来したチョコレートが以後北上しヨーロッパ全土に広まったのに対し、この唐辛子はスペインでは案外使われていない。辛みは胡椒により表現することが断然多いなか、この貴重な調味料を使った料理にマルミタコがある。じゃがいもまぐろの煮込みなのだが、なんと女人禁制の男たちだけの美食家倶楽部とやらで年に一度コンテストが開かれ、その腕前を競うらしいのだ。漁師達の男堅気といったところだろうか・・・。
他に唐辛子をピリリときかす料理にアングラス・ア・ラ・バスカがある。ジュワジュワと音を立てた唐辛子入りのガーリックオイルの中の真っ白な鰻の稚魚を木製のフォークで食べるのだ。一人前の量が多いことで有名なスペイン料理だが、メディア・ラシオンを注文し、この時ほど後悔したことはない。値段の割に量が少ないのだが、それだけ手に入り難い貴重な食材と言える。先に通過したサン・セバスティアンでは鯛などをドノスティア風と称して唐辛子とにんにくで調理されている事がある。
バスク地方の料理を語る時、お菓子について触れずにはいられない。かつて菓子工房で助手兼味見役をしていたことがあるが、当時からどうも気になっていたお菓子がガトーバスク。フランス菓子と紹介されることの多い中、”バスクとつくからにはスペインのものに違いない”とその謎解きをする機会を狙っていた。スペインでの正確な呼び名を知らないので、この場で書くのは気が引けるのだけれど、えい!書いてしまえ!はてさて、このガトーバスク、型に入れてさっくりと焼き上げたパイ生地にカスタードクリームやサクランボのフィリングを入れ、上部も同じパイ生地で蓋をしてあるのだけれど、蓋には卍や格子模様が施してある。スペインで見かけるのもは日本で紹介されているものよりずっと小ぶりで模様もシンプル。面白いことに、この卍の模様は「4つの頭」サン・セバスティアン、ビルバオ、ビトリア、と現在ナバラ地方の中心であるパンプロナを象徴し、「バスクの十字架」と称しているらしい。バターの香りのするお菓子がこの地に来ると明らかに多くなるのはまさにフランスからの影響。カヌティージョスの生地はもちろんレチェ・フリータにもバターの風味。オリーブオイルとバターの微妙な使い分けを楽しめるのもこの地方の大きな特徴だろう。
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