● トレド ●
マドリードからほぼ南へ70キロに位置するトレドは、「もし一日しかスペインにいられないなら迷わずトレドへ行くべきである」という名言もある魅力的な都市。トレドさえ見ればスペインの全体が解るというのは大きな間違いだが、食文化という面から見ても他の地方にはない独自性があり、一日しかあろうがなかろうがやっぱり行ってみたい都市である。その根源にはアルフォンソ6世の統治下でイスラム・ユダヤ・キリスト教の三宗教が長期共存したという歴史が挙げられるだろう。後、カトリック両王によりイスラム・ユダヤ教徒達はこの地を追われたものの、その文化は根強く残り、豚肉を食べることを禁ずるイスラム・ユダヤ教徒たちが、鼻先から尾っぽまで豚肉を余すところなく食べるキリスト教徒たちとの共存をどのように維持したのか探ってみたくなる。
すっかりスペインのアルムエルソの習慣を得た方には、早速、探して頂きたいものがある。トレド風モルシージャだ。イスラム文化の影響である香辛料を多量に使う料理の特色がここにも現れ、ニンニク、パプリカの他、タイム、クミンなどの多種の香草が使用されている。加えて、豚肉ではなく牛・ろば・仔羊肉を材料として造られたものも存在するのがなかなかトレドらしくて面白い。モルシージャ、ケソ・マンチェゴ(ラ・マンチャ産チーズ)に地元のラ・マンチャの赤ワインをしっかりお腹に詰め込めばトレド見物の下準備はもう万全!
トレドの曲がりくねった石畳を上がっていると、なにやら甘く優しい香りに誘われてしまった。見ればいつの間にか辺りはすっかりマサパンを売る店に囲まれ、前にはサント・トメ教会がその光景を見守っているかのようにそびえている。マサパンはアーモンドの粉をシロップで練りあげた一口サイズのお菓子でクリスマスシーズンになるとトゥロンと共にスペイン全土で親しまれているがその発祥の地がここなのだ。店内では様々な形をしたかわいいマサパンたちが出迎えてくれ、ついつい買いすぎてしまうのが玉にきずなのだけれど、出来たての香りと口の中でホロリと溶けるような食感を楽しむ醍醐味は止められないものがある。
こぢんまりとした家庭的なレストランを見つければ、名物ペルディス・ア・ラ・トレダナ(トレド風山うずらの煮込み)、コチフリート・デ・コルデロ(仔羊のコチフリート)、カチュエラ(豚レバーと豚血の煮込み)などの他、狩猟が盛んであるという土地柄、猪や鹿料理にも出合えるかもしれない。飲み物にオーダーしたハウスワインのハーフボトルがあっという間に空になりフルボトルにすればよかったと後悔することひとしおだ。甘党の方にはデザートにオレンジとアニスの香りのするプチャスはどうだろう。カリっと揚げたパンにたっぷりと濃厚なシロップがかけられている。もう胃はとっくに許容量超過。立ち上がるのもおっくうなくらいに充分食事を楽しんだ頃、今飲んだワインという媚薬はすっかり爪先にまで流れ込みトレドの坂道を蛇行しながら下りていく日本人がまたもう一人増えてしまったようだ。
|